8/19(月)~22(木)で北アルプスで話題の伊藤新道から裏銀座・烏帽子岳を巡って周遊した。
メンバーはかみさん。
北アルプスの最奥部・黒部原流域のフロンティアとして知られる伊藤正一氏が北アルプス登山黎明期に精魂込めて開拓した「伊藤新道」はかねてからのあこがれのルートではあった。
その「伊藤新道」が伊藤正一氏の息子さんらによって再整備され、昨年リニューアルオープンの運びとなった。
テレビ番組やマスコミ、ネット情報等で取り上げられたこともあり有名になり、情報も豊富なのでここはトライのタイミングと思いチャレンジしてみることにした。
再整備されたとはいえ、バリエーションのルートであると明記され、繰り返し注意喚起されている。
昨年は異常な減水で1500人からの通行ができたそうだが、今シーズンは水量が多く、架けたばかりのつり橋が3つのうち2つ使用不能になっているとのこと。
撤退、変更、中止も見据えての計画であった。
8/19(月)5時頃家を出て、9時過ぎに七倉に着いた。
大町ダムへの道に入る直前には熊を目撃した。
(ドラレコにもとれていたが、肉眼で見たより小さく見える)
七倉と高瀬ダムの間は土砂崩れの復旧工事の関係でタクシーを乗り継ぐ必要があった。
高瀬ダムからの途中の道すがら、車が入れるところまではいろいろなところで工事がされているのには少し驚いた。
高瀬ダムから湯股までは3時間ほどのコースタイムであったが、広場での休憩を含めても2時間20分ほどで行けた。
時間もあったので、手続きや昼食を済ませてから偵察に行くことにした。
手続きはタブレットによる「伊藤新道」への通行申請もあった。
山小屋の男性スタッフに1時間ぐらいで第1吊橋あたりまでは濡れずに行けると聞いていた。
吊橋を渡ったところにある山の神が祀られている。
参拝するのが礼儀というものだろう。
河原からすぐに幅広ゴルジュ状になり、短いがクライミング状態でのトラバースとなった。
2、3歩ほど手掛かり乏しい絶妙の足さばきがいるところがあったが、クライマーならどうということはない。
沢装備であれば普通に水流中をへつればいいところだろう。
湯気が上がり、温泉臭が立ち込めるあたりはこれまた有名なエリアだ。
少しだけなら触れるくらいの熱さだった。
この対岸の左岸側には天然記念物の噴湯丘が見えた。
有名になったため、人為的に荒らされてしまったらしい。
整備による補助的手段はありがたく使わせてもらい、先に進む。
普段から沢登りをやっている者には困難はない。
ここまでの巻き道にはありがたいお助けひもが要所にあり、笹藪の中の踏み跡もばっちりで安心できた。
第1吊橋先の「ガンダム岩」といわれる難所の岩場近くまで行き引き返した。
水量はさほど多くなく、このままでいけば行けそうな感触を得た。
湯俣山荘というのがすこぶるよい山小屋であった。
建物は以前の廃墟の基礎を使っているとのことだが、昨年オープンしたばかりで新しい。
それ以上にコンセプトが新しい。
今時風なのだ。
寝室はドミトリータイプで完全個室。
バーがあり、おしゃれな音楽がかかっている。
それでいて電波は入らず(少し入る時もある)、隔絶感はある。
止まっていたのは自分たち含めて10人。
若い男女2人の山小屋スタッフはとても感じがよく、親切に情報を教えてくれた。
食事がおいしい。
腹が減っているだけではなく、味付けにのこだわりが見てとれるもので本当においしいのだ。
ビール飲んだりしてゆったりと時間を過ごし、消灯前に横になった。
ここからが辛かった。
眠れない。
久ぶりの歩行運動と明日の緊張などがあったのだろうか。
夜中に降雨もあり、心配にもなる。
眠れなくても横になって休むようにする。
8/20(火)ほぼ眠れないまま、3時40分頃起床とした。
小屋のスタッフは雨雲レーダーの動きを知らせてくれて、昼には沢セクションを抜けた方がいい旨のアドバイスをしてくれた。
朝食はおかゆとスープで、寝不足の身にも食べられた。
しかも普通にうまい。
これはありがたかった。
早立ちを焦らず、朝食をしっかりとって、水量や足元がはっきり目視できる明るさで出発した方が良いことがよく分かった。
夜明けの時刻を少し過ぎた5時15分頃に出発。
前日に偵察をしているので、要領よく歩を進めて順調に第1吊橋まで行けた。
途中、自分たちより早立ちしたグループ4人を抜かしたが、この人たちとはついぞお目にかかることはなかった。
難所とされたガンダム岩の通過は下部から難なく行けた。
水量は昨日と変わらないくらいで助かった。
ただ、周辺の不安定さは強烈で、ぐずぐずしていられない場所であることは見てすぐに分かった。
そこからは徒渉を繰り返す。
桟道が設置された箇所は、湯俣山荘で事前に知らされていた通り破壊されて使えなかったが、進行には支障なかった。
徒渉は深いところで股下くらいで、思い切って流心を越えれば何とかなった。
スタッフか登山者が設置したとみられるケルンも徒渉の際に参考になったが、必ずしも適切ではないので注意だった。
火星の手前の笹藪の高巻きでは、よく整備されていて恐れ入った。
火星はビバークもできるとのことだったが、とんでもない。
大小の岩が斜面上で不安定に留まっており、速やかに通過した。
散々、クライミングや沢登りとは異なる徒渉に関わるスキルの有無をいわれたが、このくらい平水だとそうでもなかった。
ただ、周囲の不安定さはゾッとさせられる。
二ノ沢合流地点辺りは核心のポイント。
確かに水に勢いがあり、浅いところがない。
上の写真の高巻きができたので、合流点の上流で難なく徒渉できた。
使えない古く短い残置紐があったので、たどられてはいるのだろう。
右岸を進み、第3吊橋に至る。
これもワイヤーこそ架かってはいるが使用できる状態にない。
自分の目で見て頭で考え、吊橋の先で右岸から左岸へ思い切って徒渉。
かみさんと肩を組んで臨んだが、そこまで強烈な圧でもなく無事に渡れた。
このあたりで7時過ぎ。
寝不足の影響もなく、順調だ。
少し余裕が出てきたのと、ちょうど朝の光が峡谷に差し込みだしたのもあって改めて周囲を見渡せるようになってきた。
素晴らしい大自然の景観だ。
第4吊橋跡の下流あたりで降りてくる3人組とすれ違う。
第5吊橋あたりで幕営していたとのこと。
第4吊橋跡を越えたところで4時45分頃に少し休憩。
このあたりまで来ると、河原もいくらか広くなってきて徒渉もしやすくなる。
この後の山セクションに備えて水を補給しておく。
確実なのはここまで。
ここまで来ても水流はそこそこ強い。
最後の渡渉は大きな岩を利用してうまく渡ることができた。
山セクションはいきなりの急登から始まる。
下の方には後続のガイドパーティーが見えた。
時々息を整えながらも渓谷の荒ぶる姿を見入った。
山のルートは実によく整備されていて感心した。
ここからが登りの本番。
とはいえ、しっかり整備されているのとはっきりした地形であるので迷いはしないがなかなか疲れる。
展望台はあいにくの下り坂の天気で遠望は利かなかったが、周囲の環境には十分に癒された。
この先でガイドの2人組に抜かされる。
すぐ後ろにいるのはわかっていたので、やっと抜かしてくれたか感。
展望台を越えると一般道となり、傾斜も弱まり落ち着いた景観となっていく。
ここでも槍ヶ岳などの遠望は望めなかったが、ゴールの近さを感じられた。
足元に高山植物のきれいな花が目立ちだす。
12時18分頃、主稜線に達する。
約7時間で踏破できたことになる。
ここまで天気がもってよかった。
伊藤新道を上がってきた2組目。
湯俣山荘に泊まっていたので、三俣割というので3000円引きになりラッキーだった。
ゆっくり休んで、手持ちのもので昼食をとる。
この時飲んだコーヒーはおいしかった。
時間もあるので、雨に降られるのを覚悟で空荷同然で鷲羽岳にアタックする。
もちろん疲れていたし、足も張っていたが翌日の行程を楽にする上でも行っておきたかった。
荷物はほぼないが、なかなかに登る。
ガスが広がり、視界は乏しい。
そんな中、頂上のすぐ下あたりで雷鳥の群れに遭遇する。
ざっと5羽はいた。
ガスの切れ間からは鷲羽池などちょいちょい景色もあってラッキーだった。
鷲羽岳はかみさんが赤木沢を登った時に目にしてぜひ登ってみたいと思った由に、こうして頑張ってしまった。
15時前頃でさすがに最終と思って下山していたら、全荷で登ってくる人がまだいたのには驚いた。
三俣山荘はさすがに人もそこそこ多く、賑わっていたが行き届いた感じに好感が持てた。
水不足とのことで、飲水は天場まで汲みに行く必要があり、食器も自分たちで拭いてから下膳であった。
水を汲みに行くことなく、ビールで過ごしたが。
この日の夜はさすがに良く寝られた。
8/21(水)この日は裏銀座縦走コースから烏帽子小屋まで歩く予定で、かなり長い。
朝食をしっかり食べて、水分を十分にとっておく必要があった。
慌てることなく、ゆっくり出発。
昨日鷲羽岳を登っておいたので、沢コースをたどることにする。
途中の水源で水を入れ替える。
冷たい水がおいしい。
水の近くを歩くのは何か安心する。
天気はいいはずだが、直射がなく涼しい。
しかし思ったより時間がかかり、コースタイムを少し越えて小屋から1時間45分ほどかかる。
そこからはアルペン気分満喫の山稜コースとなった。
水晶小屋に荷物を置き、空荷同然で水晶岳にアタックする。
さすがにそこそこ人はいるが、混んでいるというほどではない。
折よく天候にも恵まれ、周囲の絶景を360度段能できた。
水晶小屋に戻ってからは、本ルートに戻ってロングトレイルとなる。
花崗岩の岩稜帯を上り下りし、急傾斜はないものの足元に注意しながらの慎重なルート取りが必要となる。
北アルプスらしい、快適な山稜歩きといいたいところだが、遥か先まで続くのを見るといい加減嫌になり、疲れも増す。
道は見えているが、長い。
日射しもきつく感じるようになる。
容易な道だが、蓄積した疲労もあり長く感じる。
人は少ない。本当に静かだった。
12時頃ようやく野口五郎岳山頂着。
登る時に3人とすれ違ったが、山頂は誰もいない。
静かな山頂を堪能した。
予報通り、ガスがそこここで湧き出していた。
北側に下りたところにある野口五郎小屋でコーラのペットボトルを700円で買って飲み干す。
ちょっと後ろめたさを感じるが、これはうまかった。
ここで昼食をとって、さらに北上する。
道はすこぶる歩きやすい。
が、長くは感じる。
三ツ岳を越えるあたりまでは長く感じた。
やがて特徴的な烏帽子岳が見えてくると青い屋根の烏帽子小屋も見えるようになり、ようやくめどが立ったように思えた。
14時50分頃に烏帽子小屋に到着。
天場には数張あったが、小屋は静かなもので泊り客は自分たち含めて6人しかいない。
前日までにキャンセルが相次いだそうで、いい時に泊まれたものだ。
4人部屋を2人で使えた。
疲れもあって、早々食欲がわかない。
その状態にあって、カレーの夕食は助かった。
ゆっくりなら食べられたし、そもそも結構うまい。
この小屋は繁忙期はすさまじいらしく、やむなく単品メニューにしているようだ。
前の週は天場だけで100人はいたという。
それがこの空きよう。
ゆっくりとした時の流れを感じつつ、就寝した。
これまでで一番よく寝られた。
8/22(木)最終日。
朝食は前日に配られたおにぎり2個。
これもわびしいと思うところだが、効率的には良かった。
たっぷりのお茶とともにゆっくり食べたら案外食べられた。
最後発で烏帽子岳アタック。
天気は霧だった。
展望なく残念ではあったが、まあ良しとして最上部の岩場に登る。
てっぺんで遊んでいるうちにみるみると視界がとれるようになってきた。
ラッキーだった。
好展望を堪能し、下山に移る。
少しのタイミングでこうも違うのかと思わされた。
小屋近くのクラック&フレークが気になり、少し触る。
今回は岩のクライミング要素はほぼなしだった。
烏帽子小屋で丁寧な見送りをしてもらえた。
感激した。
山小屋がよかったのか、タイミングがよかったのか、今やそういう時代なのか。
何しろ、今回の山小屋はどれも良かった。
これまで感じたことのない印象だ。
北アルプス3大急登といわれるブナ立尾根を一気に降りる。
途中、スマホを山小屋に忘れた中央大WVの学生に声をかけ、役割を果たせて安堵する。
急な坂だが、整備が行き届いた一般道は歩きやすい。
10時過ぎには濁沢の登山口に着く。
2時間半弱ほどか、思ったより早くつけた。
前の週に流されて徒渉を心配していた丸太橋も立派に復旧されていて一安心した。
仮にここで足止めを食らったら万事休すだった。
周辺では重機を使った作業がされていたが、埋まった看板や建物を見るととてもキャンプなどできないことがわかる。
吊橋を渡り不動隧道を抜けたら高瀬ダムに到着。
タクシーが待機していてすぐに乗り込んだ。
来た時と同じように乗り継ぎをし、11時半頃には七倉に到着して今回の山行は終了した。
葛温泉の高瀬館で貸し切り同然で温泉に浸かり、汗を流してから帰路に着いた。
美麻にある「手打ちそば美郷」に立ち寄った。
ここのそばは絶品だった。
大盛にしたが、つるつると食べらることができた。
辛味噌と出汁が素朴なそばにいい具合に絡み、葉の天ぷらや雑きのこのトッピングと相まってうまみが染み渡った。
小川村を経由して長野ICに向かう。
道の駅おがわで買い物をして帰路に着いた。
出発前日までだらけた生活をしていて天候等のコンディションも心配は尽きなかった。だが、その割に意外なまでに順調な山旅であった。
今回もかみさんの素晴らしい体力と様々な協力の賜物であったことは言うまでもない。
とても喜んでくれたようなのでよかったかな。
自分としては総じて大満足であった。
運に助けられたところはあったが、まだなんとか歩けているようで安心もした。
もっとも、体中に痛みは残ったが。